貴金属ナノ粒子金合金ナノ粒子の構造制御とその挙動

金ナノ粒子、貴金属ナノ粒子については、教授が学部生時代から研究を行っています。粒子径、構造、元素分布を制御することで、さまざまな可能性をもつナノ粒子を作ることができることを示してきました。ナノ粒子は「設計」することが可能となってきています。

①貴金属ナノ粒子、バイメタリックナノ粒子の構造制御とその挙動

パラジウム、白金、金などを含むナノ粒子の合成を古くから行ってきた。最初に教授がこの研究を始めたころは「ナノ粒子」という言葉もなかった。ナノ粒子は化学工学会でよく取り上げられていた(今もそうです)が、私たちは「液中還元法」に注力し、ナノ粒子を分散液として得ていた。

その中でも、PVP(ポリビニルピロリドン)に保護された貴金属ナノ粒子、バイメタリックナノ粒子について詳細に検討してきた。これらの貴金属ナノ粒子の合成には、アルコール還元法を用いた。アルコール還元法は化学還元法の1つで、エタノール/水混合溶媒に貴金属塩を溶解し、加熱還流することで還元することができる。そのとき、アルコールは以下のようにアルデヒド、カルボン酸に酸化される。(お酒を飲んだ時の代謝プロセスですね!)このようにα水素が還元に関与していることが知られている。

CH3CH2OH → CH3CHO → CH3COOH この反応で貴金属イオンを還元

CH3CH2OH → CH3CHO → CH3COOH この反応で貴金属イオンを還元

貴金属塩としては、塩化パラジウム、塩化白金酸、塩化金酸、硝酸銀、塩化ロジウムなどが多く用いられている。還元時にPVPを保護高分子として溶解させておけば、PVPで表面を保護されたナノ粒子分散液が調製される。図の左側のように保護されていると想像される。このとき、PVPは複数の点でナノ粒子と接しているため、同時にすべての点で粒子表面から離れないと不安定化しない。このために、高分子保護ナノ粒子は安定なのである。

アルコール還元法は多くの貴金属ナノ粒子の合成に適応できる簡便な方法である。遷移金属ナノ粒子の合成では、より沸点の高い、ポリオールを用いて行われることもある。これもアルコール還元法の次の世代の方法と考えることもできる。こうして得られた高分子保護貴金属ナノ粒子は有効な触媒として機能する。

fig13

高分子によって保護されたナノ粒子は、図の右側の金属配位子によって保護されたものと違い、金属表面と高分子との相互作用の力が小さいので、基質(触媒によって反応する物質)がナノ粒子表面に近づくと高分子は表面から脱着し、反応生成物がナノ粒子表面から離れると高分子はまた保護するというプロセスをして、安定にナノ粒子を分散し続けるものと考えている。

fig14

さて、2つの金属塩を同時に還元するとどのようになるのか。固溶体(Solid Solution)と呼ばれる合金のように、二つの金属元素はランダムに配置されると考えることもできるが、実際はそのようにならなかった。研究ではまずパラジウムと白金の同時還元について検討した。構造については、XRD、XPS、EXAFSで検証した。XRD(X線回折)では、合金化した場合のXRDパターンと2つの金属のそれぞれのナノ粒子の混合物のXRDパターンは大きく異なっていた。これは、ナノ粒子が確かに1つの粒子内に2つの金属元素を含んでいることを強く示している。

パラジウムと白金のイオンを同時にエタノール/水中でPVPの存在下還元すると、パラジウムと白金のバイメタリックナノ粒子が合成できる。パラジウムと金、金と白金でも同様にバイメタリックナノ粒子が得られた。

このバイメタリックナノ粒子を水素化触媒に用いたときの反応活性について下に示した。

fig15

共役ジエンである、1,3-シクロオクタジエンの部分水素化に有効であるばかりか、パラジウム80%のときに最も高い活性を示すことが分かった。(文献1, 2)これは、バイメタリック化によって金属の電子状態が変わったものと理解されるが、ナノ粒子の微細な構造を知る必要がある。

XPSからは、パラジウム・白金の場合、パラジウムが表面にあることが示されている。そこで、X線吸収スペクトルによって詳細構造を検討した。(文献3,4)X線吸収分光法のなかでもEXAFSは吸収元素の周囲にある散乱元素の種類、配位数、原子間距離を知ることができる。

それから求めると、1.5 nmレベルのバイメタリックナノ粒子は55個の金属元素を含んでおり、その形と原子配置から考えると、白金コア、パラジウムシェルの構造をもつことが示された。こうした研究は現在のナノ粒子触媒の基礎を作った研究結果である。

fig16

こうしたコア-シェル構造の決定機構は、酸化還元電位の違いによる還元順序の違いと、高分子と金属との相互作用力の違いで説明されると考えている。酸化還元電位の違いをみてみるために、イオンのピークのわかりやすいパラジウム/金の還元時の紫外可視吸収スペクトルの変化をみてみる。(文献5, 6)

fig17

図から、金の還元がほぼ終了するまで、パラジウムのピークは変化しないことがわかる。このことは酸化還元電位の違いによって説明できる。しかし、もう一つ重要な点は、「Geared Cycle」である。Geared Cycleとはギヤの組み合わせのように酸化還元が進むことで、一方のイオンだけの還元が進むように見かけ上見えることになる。パラジウムと白金、金の組み合わせの場合を下に示した。

fig18

このようにしてアルコール還元法であれば、コア-シェルバイメタリックナノ粒子が得られることが見いだされている。

さらに最近では、粒子径をそろえたオクタヘドラル粒子(単結晶)の合成をおこない、その挙動について検討を重ねています。また、微小粒子の設計・合成についても行っており、プラズモン吸収の効果がさまざまなところへ展開できると考えている。

  1. Naoki Toshima, Kakuta Kushihashi, Tetsu Yonezawa, and Hidefumi Hirai, “Colloidal Dispersions of Palladium-Platinum Bimetallic Clusters Protected by Polymers. Preparation and Application to Catalysis”, Chemistry Letters, 1989(10), 1769-1772.
  2. Naoki Toshima, Tetsu Yonezawa, and Kakuta Kushihashi, “Polymer-Protected Palladium-Platinum Bimetallic Clusters: Preparation, Catalytic Properties and Structural Considerations”, Journal of Chemical Society, Faraday Transactions, 89(14), 2537-2543 (1993).,
  3. Naoki Toshima, Tetsu Yonezawa, Masafumi Harada, Kiyotaka Asakura, and Yasuhiro Iwasawa, “The Polymer-Protected Pd-Pt Bimetallic Clusters Having Catalytic Activity for Selective Hydrogenation of Diene. Preparation and EXAFS Investigation on the Structure”, Chemistry Letters, 1990(5), 815-818.
  4. Naoki Toshima, Masafumi Harada, Tetsu Yonezawa, Kakuta Kushihashi, and Kiyotaka Asakura, “Structural Analysis of Polymer-Protected Pd/Pt Bimetallic Clusters as Dispersed Catalysts by Using Extended X-ray Absorption Fine Structure Spectroscopy”, The Journal of Physical Chemistry, 95(20), 7448-7453 (1991).
  5. Tetsu Yonezawa and Naoki Toshima, “Mechanistic Consideration of Formation of Polymer-protected Nanoscopic Bimetallic Clusters”, Journal of Chemical Society, Faraday Transactions, 91(22), 4111-4119 (1995).
  6. Naoki Toshima and Tetsu Yonezawa, “Bimetallic nanoparticles novel materials for chemical and physical applications”, New Journal of Chemistry, 1998(11), 1179-1201.
  7. Tetsu Yonezawa and Naoki Toshima, “Polymer- and Micelle-Protected Gold/Platinum Bimetallic Systems. Preparation, Application to Catalysis for Visible Light-Induced Hydrogen Evolution, and Analysis of Formation Process with Optical Methods”, Journal of Molecular Catalysis, 83, 167-181 (1993).