本研究では金ナノ粒子などの貴金属ナノ粒子の連続合成に向けた装置系の構築を行いました。
得られた金ナノ粒子はX線マーカーとして利用できないかと検討しました。
X線マーカーとは図1に示すように、例えば患部近傍に固定化し、X線吸収(金は原子番号が大きいので、X線の吸収が効率よく起こる)を利用して、その位置を知ることが可能となるために利用します。
人間の臓器の位置は呼吸により刻々と変わります。腫瘍などの病変した部位も、その臓器の移動につれてその位置を常に変えています。例えば、横隔膜附近の肺がんでは、人間の行う呼吸によって3 cm程度の振幅で腫瘍の位置が移動してしまうことが分かっています。
そうだとすると例えば、放射線治療時において放射線を照射する位置も時々刻々と変えていくことが必要となると考えられます。直径1 cmの腫瘍が左右に1.5 cm(合計3 cm)の振幅で呼吸とともに動くとすると、放射線照射の位置が変えられない場合には、腫瘍を含む4 cmの広さに照射しなければ、治療効果を上げることができません。その結果として、放射線を病変部位だけではなく、臓器の正常な部位へも多く照射することになることになりますから、正常な組織の耐えられる範囲までに放射線量を十分に低くしなくてはならなくなってしまいます。
そうすると、放射線治療では、多くの正常細胞に放射線ダメージを与えてしまうにもかかわらず、肝心の腫瘍部位にも低い放射線量しか照射できずに、治療効果が極めて低くなってしまいます。
この問題の解決のためには、X線不透過性の高い、つまり原子番号の大きな元素を含む病変識別マーカを体内に導入して留置(固定)し、呼吸によってそのマーカが動かない状態にして、そのマーカを目標として装置を移動させながら放射線照射できれば、腫瘍のみに放射線があてられるようになるために、より多くの放射線量を正常な組織に影響することなく治療効果をあげることができます。そのためには、生体親和性なども考慮すると金がマーカ材料に用いることがよいと思われます。
本研究では、ナノ粒子合成のために液中プラズマ法を用いることとしました。そのなかでも、与えるエネルギー量が貴金属の粒子合成に適しているRF(ラジオ波)プラズマを用いました。これまでマイクロ波などを用いてきましたが、エネルギー量が大きく、金のような融点の素材では、うまく制御できませんでした。
今回、作製した装置では、反応容器はパイレックスチューブの上下にテフロンで蓋をし、減圧ならびに分散液の取り出しが可能な状態にして構成しました。減圧にするのはプラズマが立ちやすくするためです。金電極は2本を反応容器内に中心から出して構成しました。様々な場所で放電しないように、セラミックスの絶縁保護筒にて保護し、先端のみ金属を露出させることで、先端のみでプラズマが発生するようになり、金ナノ粒子が連続的に得られました。
RF液中プラズマで合成された金ナノ粒子
さらに、このとき、金属棒の先端から徐々に短くなっていくために、金属棒同士の間隔が広がっていくことになります。連続合成のためにはその間隔をある範囲に保つことが重要です。一方、比較的融点が高くなく、柔らかい貴金属の場合、その電極をあまり細くすると、利用時に曲がったり、先端部が放電で溶けて太くなったりします。そこである程度の太さの電極とし、ステッピングモーターを用いて1パルスごとに先端を近づける構造を作りました。その結果、ナノ粒子の合成を連続的に行えるように設定を可能としました。
今後、論文発表などでさらに詳細を報告してまいります。ご期待ください。
貴金属ナノ粒子の大量合成のための連続合成装置開発補助事業に関する報告書(2021年度競輪補助事業)
この研究は、競輪の補助を受けて実施しました。