金属ナノ粒子微粒子の電子部品部材への応用展開

研究背景

ナノ粒子化するとバルクとは異なる特性が発現することがありますが、その 一つに融点の降下が挙げられています。これは非常に微細なナノ粒子になると、金属にお いてもその融点が下がってくることです。つまり、融点は「物質に固有」ではなく、物質 とそのサイズに依存するものであります。これは、ナノサイエンス・ナノ工学の一つの大 きなテーマであります。そこまで小さくならなくても、金属を焼結して導電性を出したい 場合、その焼結温度を下げることが可能です。これを利用して、いわゆるプリンテッド ・エレクトロニクスに貢献する導電材料を創ることができると考えられています。

そこで、当研究室では、すでに金属ナノ粒子・微粒子の研究を広く行っておりますが、その応用展開のなかで、実用化を目指して、電子部品部材への応用展開を行ってい ます。

非酸化遷移金属微粒子・ナノ粒子を合成し、それを電子部品部材として利用する。

銅、ニッケルなど遷移金属粒子を化学還元法などで調製し、耐酸化性を付与した形で粒子径を揃えたものを得ています。当研究室ではすでに、クラスターレベルからから200nm前後まで粒子径をそろえて銅ナノ粒子・銅微粒子を得ることに成功しています。その手法も様々で、ほかのページで述べていますが、化学還元法、液中プラズマ法、マトリクススパッタリング法を駆使してナノ粒子を合成しています。

公表論文

  1. Tetsu Yonezawa,* Yoshiki Uchida, and Hiroki Tsukamoto
    “X-ray diffraction and high-resolution TEM observations of biopolymer nanoskin-covered metallic copper fine particles. Preparative conditions and surface oxidation states”, Physical Chemistry Chemical Physics17(48), 32511-32516 (2015).
  2. 成島 隆,吉岡隆幸,宮崎英機,菅 育正,佐藤 進,米澤 徹,「マイクロ波液中プラズマ法による銅微粒子の合成」,日本金属学会誌,76(4),229-233 (2012).
  3. Kiyonobu Ida, Masanori Tomonari, Yasuyuki Sugiyama, Yuki Chujyo, Tomoharu Tokunaga, Tetsu Yonezawa, Kotaro Kuroda, Katsuhiro Sasaki, “Behavior of Cu nanoparticles ink under reductive calcination for fabrication of Cu conductive film”, Thin Solid Films520, 2789–2793 (2012)
  4. Tetsu Yonezawa, Naoki Nishida, Atsushi Hyono, “One-pot Preparation of Antioxidized Copper Fine Particles with a Unique Strucure by Chemical Reduction at Room Temperature”, Chem. Lett., 39, 548-549 (2010).
  5. 西田直樹,米澤 徹,「第1章 金属ナノ粒子の種類、合成法分類と基本的な物性」(分担執筆)菅沼克昭監修「プリンテッドエレクトロニクス技術最前線」,シーエムシー出版,pp. 115-120 (2010).
  6. 兵野篤,米澤徹,「金属ナノ粒子・微粒子の湿式合成法と応用」,セラミックス,45(8),609-612 (2010).
  7. Masanori Tomonari, Kiyonobu Ida, Hiromi Yamashita, Tetsu Yonezawa, “Size-controlled oxidation-resistant copper fine particles covered by biopolymer nanoskin”, Journal of Nanoscience and Nanotechnology, 8(5), 6925-6927 (2008).

応用例

そのなかでも、液相還元して合成した銅微粒子については、インク・ペーストとして大きく現在展開しています。このような小さな粒子径の銅ナノ粒子を非酸化状態で粉末として得られる系 はなかなかなく、我々のものは優れていると考えています。我々は分散剤としてゼラチンを用いています。ゼラチンが銅微粒子の表面を密にコートし、銅微粒子の酸化を防いでいます。

ゼラチンはそれ自体「金数」(NaCl添加時においても金ナノ粒子を分散し続けるために必要な分散剤の量を示す指数)が小さく、保護能が高いこと、酸素透過性も低く、コストも安いことからこうした目的に適していると考えている。

最近では粒子合成のみならず、均一なインク・ペースト化についても努力をしているとともに、融解挙動、焼結挙動など興味ある変化についても観察してきており、今後、産業界の求めに応じた銅ナノ材料の供給を可能とするものと考えている。微粒子・ナノ粒子のペースト化にはノウハウが必要な場合も多くありますが、そのような手法の開拓も当研究室では行っています。実際、装置のページでご覧いただけるようにペースト化の装置も有しています。

大学の研究室でここまで展開している例もあまりありません。銅のナノ材料においては、実用性の面では世界をリードする内容を有していると自負しており、今後積極的に特許 出願、論文発表を行って参るとともに、導電性材料の元素代替および低コスト化(ニッケルから銅へ、銀から銅へ)に向けて、新しい展開を模索しています。

今後大きく展開すると考えられるプリンテッドエレクトロニクスの一翼を担いたいと考えています。

当研究室で合成できるペーストと基板に塗布した例

当研究室で合成できるペーストと基板に塗布した例

これらの銅微粒子は導電性薄膜用、配線印刷用に用いられるほか、積層セラミックスコンデンサ(MLCC)の内部電極にも用いられる。積層セラミックスコンデンサの内部電極はAg/Pdの合金からニッケルへと変わってきた。しかし、ニッケルには、いくつかの問題があり、銅への置き換えが考えられている。価格的なモチベーションは少ないかもしれないが、レアメタルのニッケルに代え、コモンメタルの銅への変換、ニッケルの磁性や毒性の回避はこれからの電子部品産業においては一つの重要課題だと考えられる。
さらに、これらの銅微粒子はレーザーシンタリングによって容易に描画できることも明らかとなった。さらに、こうしたレーザー焼結だけでなく、低温焼結から600℃程度のガラスセラミックス、MLCC内部電極などの高温焼結まであらゆる焼結に対応可能な銅微粒子ペーストが生まれてくる。

公表論文

  1. Masaki Matsubara, Tetsu Yonezawa,* Takato Minoshima, Hiroki Tsukamoto, Yingqiong Yong, Yohei Ishida, Mai Thanh Nguyen, Hiroki Tanaka, Kazuki Okamoto, and Takuya Osaka, ”Proton-assisted Low-temperature Sintering of Cu Fine Particles Stabilized by a Proton-initiating Degradable Polymer”, RSC Advances5(124), 102904-102910 (2015).
  2. Masaki Matsubara, Tetsu Yonezawa,* and Hiroki Tsukamoto, “Effect of Glass Transition Temperature of Stabilizing Polymer of Air-stable Gelatin-stabilized Copper Fine Particles during Redox Two-step Low-temperature Sintering Process”, Bulletin of Chemical Society of Japan88(12), 1755-1759 (2015).
  3. Tetsu Yonezawa,* Hiroki Tsukamoto, and Masaki Matsubara, “Low-temperature nanoredox two-step sintering of gelatin nanoskin-stabilized submicrometer-sized copper fine particles for preparing highly conductive layers”, RSC Advances5(75), 61290-61297 (2015).
  4. Yingqiong Yong, Tetsu Yonezawa,* Masaki Matsubara, and Hiroki Tsukamoto, “Mechanism of Alkylamine-Stabilized Copper Fine Particles towards Improving Electrical Conductivity of Copper Films at Low Sintering Temperature”, Journal of Materials Chemistry C3(23), 5890-5895 (2015).
  5. Gang Qin, Akira Watanabe, Hiroki Tsukamoto, and Tetsu Yonezawa
    “Copper Film Prepared from Copper Fine Particle Paste by Laser Sintering at Room Temperature: Influences of Sintering Atmosphere on the Morphology and Resistivity”
    Japanese Journal of Applied Physics,  53(9), 096501 (2014).
  6. Tetsu Yonezawa, Shinsuke Takeoka, Hiroshi Kishi, Kiyonobu Ida, Masanori Tomonari, “The preparation of copper fine particle paste and its application as the inner electrode material of a multilayered ceramic capacitor”, Nanotechnology19(14), 145706 (2008).

さらに、科学的な研究例として微粒子・ナノ粒子の高温その場観察を行っています。それについては「加熱TEMその場観察法」の欄をご覧下さい。